11.特別支配株主による株式売渡請求等



株主が他の株主から株式を召し上げる特殊な制度なので、特別な配慮が必要。




【中間試案の概要】 中間試案全文
特別支配株主による株式売渡請求等
@ 「対象会社」の特別支配株主は,対象会社の 全ての株主(特別支配株主及び対象会社を除く。「売渡株主」とい う。)に対し,その有する株式の全部を特別支配株主に売り渡すことを請 求することができるものとする。
(注) 「特別支配株主」とは,総株主の議決権の10分の9 以上を有している者
A 特別支配株主は,@による請求(「株式売渡請求」という。)をす るときは,併せて,全て新株予約権者に対し,その有する新株予約権の全部を 売り渡すことを請求することができるものとする。
B 株式売渡請求は,次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない ものとする。
ア 交付する金銭の額又はその算定方法
イ アの金銭の割当てに関する事項(金銭を割り当てるこ とを内容とするものでなければならない)
ウ 取得日
C 特別支配株主は,株式売渡請求をしようとするときは,対象会社に対 し,その旨及びBに掲げる事項を通知し,当該請求をすることについて, 対象会社の承認を受けなければならないものとする。
D 対象会社が取締役会設置会社である場合には,Cの承認をする旨の決 定は,取締役会の決議によらなければならないものとする。
E 対象会社は,Cの承認をした場合には,取得日の20日前までに,売 渡株主に対し,当該承認をした旨,特別支配株主の氏名又は名称及び住 所並びにBに掲げる事項を通知しなければならないものとする。対象会 社が公開会社である場合には,当該通知は,公告をもってこれに代える ことができるものとする。
F 対象会社がEの通知又は公告をした場合には,特別支配株主は,売渡 株主に対し,株式売渡請求をしたものとみなすものとする。
G (備置等)
H 特別支配株主は,取得日に,売渡株式の全部を取得するものとする。
I (備置等)
J 売渡株主は,取得日の20日前の日 から取得日の前日までの間に,裁判所に対し,売買価格の決定の申立て をすることができるものとする。
(注) 取得日後一定期間(例えば,20日)を経過する日までの間にも申立てを することができるものとするかどうかについては,なお検討する。
K (争いの間の付利)
L (差止請求)
M (無効の訴え)
N (裁判管轄)
O (無効の訴えの効力)




【意見】
(導入自体には反対はしないが)制度を導入するならば、以下の2点が条件。
1)事前または事後に売渡株主への個別通知を行い、当該通知に価格を争う手続に関する説明を記載(もちろん事前が望ましい)
2)公告・通知・支払手続等の費用は(会社名で行うとしても)特別支配株主が負担

【理由】
1)個別通知について:
本制度は極めて特殊な制度であり、価格を争う手続を教示するなど、少数株主に手厚い保護が必要。
2)費用について
本手続には、特に少数株主が多数に及ぶ場合に多額の費用を要す。これは特別支配株主が負担すべきである。

【説明】
他のキャッシュアウト手続は会社の行為であり、(全部取得条項付株式を含め、)株主総会や定款規定を通じて少数株主が予見可能。
しかし、本制度はある株主が別の株主の保有株式を強制的に召し上げる特殊な制度であり、特別支配株主の存在を少数株主があらかじめ認知し、手続開始や売渡条件を公告でキャッチすることを要求するのは酷である。
その状況下では、公告のみでは保護は不十分である。差止請求を実効あるものとするためには事前であることが望ましいが、最低でも事後に個別通知が必要である。
買取代金は郵便振替支払通知書等で株主に送付することとなると思われるため、少なくともその際には、価格を争う手続を含めた個別通知を行うよう規定すべきである(それがなければ、少数株主は何が発生して郵便振替支払通知書が送られたのかすら理解できまい)。
加えて、本制度の特殊性に鑑み、価格決定請求は事後にも認めるべきは当然であり、その期間は注に記載の20日間では不足で、相当長期(3か月程度?)にわたり認めるべきである(中間試案の補足説明の全部取得条項付株式の取得価格の決定の部分で述べられているような問題はある。しかし、現実には、零細株主は価格を争う実益が少なく、価格を本格的に争うに至るのは比較的多数の株式を保有する少数であろう。)。
また、少数株主が多数に及ぶ場合には、支払手続(事後通知を兼ねることができよう)には、印刷・郵送・株主名簿管理人の代行手数料等に多額の費用を要する。これらは(特別支配株主名で行うことになるから)特別支配株主の負担とするのは当然であるが、公告など会社名で行う手続の費用も特別支配株主が負担すべきである。

【補足】
価格の相当性を会社が評価することから、インサイダー問題が懸念される。
すなわち、会社に未公開重要情報があるときは、会社は価格の相当性を評価することができないことが多いであろう(少なくとも、価格の相当性の根拠を示すことができない。根拠を示させることで価格の透明性を確保する狙いとのジレンマである。)。
(例:特別支配株主と会社が当該重要情報を共有している場合、価格は市場価格と乖離することがあり得るが、会社はその乖離の根拠を開示できない。一方、特別支配株主と会社が当該重要情報を共有していない場合、会社は価格の相当性の評価を拒否せざるを得ず、少なくとも重要情報が存在することが特別支配株主に知れてしまう。)
また、特別支配株主に株主名簿を提供することが必須となる(実際には株主名簿管理人が代行することが多いと思われるが)ことから、後記13.の閲覧書類に関する守秘義務規定は一層重要になる。




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