9.多重代表訴訟





【中間試案の概要】 中間試案全文
多重代表訴訟
【A案】
株式会社の親会社の株主が当該株式会社の取締役等の責任を 追及する訴え(多重代表訴訟)を提起することを認める制度を, 次のとおり創設するものとする。
@ 親会社の株主は, 当該株式会社に対し,取締役等の責任を追及する訴えの提起を 請求することができるものとする。(濫用的なもの等一定の場合を除く)
A @の親会社は,@による請求の日において,@の株式会社 の最終完全親会社に限るものとする。
(注) 完全親会社には,株式会社の発行済株式の全部を間接的に有する法人等も含まれるものとする。
B (親会社の株主の株式保有期間要件)
(注) 株式会社とその親会社の株主との関係は,当該親会社を通じ た間接的なものであること等から,例えば,次のア又はイのよ うな規律を設けるものとするかどうかについては,なお検討す る。
ア (単独株主権ではなく少数株主権とする)
イ (株主共同利益による制限)
C 原因である事実が生じ た日において,@の親会社が有する当該株式会社の株式の帳 簿価額が当該親会社の総資産額の5分の1を超える場合に限 り,@による請求の対象とすることができるものとする。
D 株式会社が@による請求の日から60日以内に@の訴えを 提起しないときは,当該請求をしたその親会社の株主は,当 該株式会社のために,@の訴えを提起することができるもの とする。
E(責任免除の制限)
【B案】
多重代表訴訟の制度は,創設しないものとする。
(注) B案によることとする場合,親会社株主の保護という観点から親 子会社に関する規律を見直すことについて,例えば,次のような規 律を設けることを含めて,なお検討する。
ア 取締役会は,その職務として,株式会社の子会社の取締役の職 務の執行の監督を行う旨の明文の規定を設けるものとする(会社 法第362条第2項等参照)。
イ 株式会社の子会社の取締役等の責任の原因である事実によっ て当該株式会社に損害が生じた場合において,当該株式会社が当 該責任を追及するための必要な措置をとらないときは,当該株式 会社の取締役は,その任務を怠ったものと推定するものとする。
ウ 株主は,株式会社の子会社の取締役等の責任の原因である事実 があることを疑うに足りる事由があるときは,当該株式会社に対 して,当該責任の追及に係る対応及びその理由等を,自己に通知 することを請求することができるものとする。
エ 総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等 は,株式会社の子会社の業務の執行に関し,不正の行為等がある ことを疑うに足りる事由があるときは,当該子会社の業務及び財 産の状況を調査させるため,裁判所に対し,検査役の選任の申立 てをすることができるものとする。




【意見】
B案に賛成。
但し、注のア〜ウには反対。

【理由】
1)A案は、積極的な理論的根拠づけが困難。ごくわずかでも少数株主が存在する場合との差が大きすぎる。
2)B案アは、親会社による子会社経営への不当な介入の根拠ともなり得るもの。グループ経営の自由度設計はグループ自治に任せるべきである。
3)B案イについては、子会社取締役の責任が立証できれば、本案の推定規定がなくとも完全親会社取締役の責任立証はかなり容易であり、規定を置く実益が小さい。一方、取締役の任務懈怠は一般的な記述で規定されているところ、本案のようにスコープを絞った注意的規定をあえて設けることはバランスが悪く、無用の反対解釈の根拠となり得るなど弊害がある。
4)B案ウは、一部株主による濫用の可能性がある。通常の代表訴訟の手続に則り、「取締役が子会社取締役の追及を怠ることにより親会社に損害を与えているからこれを追及せよ」と親会社監査役に請求することで十分である。
5)B案エについては、過剰感はあるものの、裁判所が介在し濫用のリスクが軽減されることを勘案し、特に反対しない。

【説明】
1)A案について:
立法事実は理解できるし、もし制度を導入する場合には、100%子会社以外については「子会社取締役の追及は少数株主に任せるべし」との判断は妥当である。
しかし、それはあくまでも「制度を導入するなら」のハナシであり、「消極的」説明に留まる。
そもそも制度導入の「積極的」根拠となる理論的裏付けが弱い。すなわち、1単元でも少数株主が存在する場合との大きな差異について理論的説明が困難なのである。
「親会社の子会社監督責任」に依拠するとすれば、「1単元でも少数株主が存在すれば当該少数株主に任せる、その程度の権利」ということになるし、「完全親会社の株主に固有の権利」と構成するには理屈が立たないのである。
また、1単元少数株主を作ることによって潜脱することができ、実効性にも課題があろう。(株主への利益供与とならぬよう留意は必要であるが)物言わぬ少数株主となるファンドが商売になるかもしれない。
2)B案アについて:
この案が不適切である例を挙げよう。
親会社の包括的義務を規定する場合、当該義務は100%子会社のみを対象とするものとは考えられず、少数株主が存在する場合も、親会社は、子会社を監督する義務を負うことになる。
故に、本制度は、(純投資としてマジョリティを出資するなど)親会社が少数株主に配慮して子会社に自律的な経営を許している場合に、これを親会社株主が糾弾する根拠となるし、それを口実に親会社が少数株主の意向に反して子会社に介入するなど、自由なグループ運営の阻害要因となり得る。
(この意味から、内部統制の運用状況として子会社から親会社への報告状況等を事業報告に記載させることにも反対する。)
3)B案イについて:
この案は、中間試案の補足説明の「親会社株主が、子会社の管理・監視に関する親会社の取締役等の責任の内容を明らかにし、損害及び因果関係と併せて立証することは、子会社の取締役等の責任を追及する場合よりも困難である」との認識に基づくものと思われる。しかし、子会社の取締役等の責任が立証できるのであれば、それを追及しない完全親会社の取締役の責任立証は比較的容易であると思われ、前記認識には賛成できない。
子会社の損害によって親会社に発生している損害の立証はたしかに困難であるが、これはB案イでも解決されていないと考える。




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