8.株式併合における端数株式の買取請求




中間試案で最もナンセンス。
なぜこのような案が残せるのか理解に苦しむ。
いずれ端数処分により現金化されるものについて、それとは異なる手続で現金化を追求する権利を重畳的に与える意義が不明である。
しかし、端数処分全般に問題があるのは事実である。今せっかく議論になったのだから、一歩進んで、端数処分全般について抜本的改善を議論すべきである。




【中間試案の概要】 中間試案全文
株式の併合
端数となる株式の買取請求
@ 株式の併合により一株に満たない端数が生ずるときは,反対株主は, 当該株式会社に対し,自己の有する株式のうち端数となるものを公正 な価格で買い取ることを請求することができるものとする。
(注2) 買取請求をしなかった株主の有する株式のうち端数となるものの処 理は,会社法第235条に定める手続によるものとする。
A (「反対株主」の定義)
B (備置等)
C (併合の通知)
D (買取請求の時期)
E (買取請求の撤回の制限))
F 買取請求があった場合において,株式の価格について,株主と株式会社との間に協議が調ったときは,株式会社 は,効力発生日から60日以内にその支払をしなければならないもの とする。
G 株式の価格について,効力発生日から30日以内に協議が調 わないときは,株主又は株式会社は,その期間の満了の日後30日以 内に,裁判所に対し,価格の決定の申立てをすることができるものと する。
H (価格の争いの間の付利)
I (買取りの効力発生)
J (備置等)
K (自己株式の取得財源規制不適用)
(注) 上記のほか,端数となる株式の買取請求に関する手続等については,組織 再編等における株式買取請求制度に準じて,所要の規定を設けるものとする。




【意見】
反対。端数処分制度自体の問題解決によるべきである。

【理由】
実効性・公平性とも問題あり、現状の問題(モック問題)解決になっていない。
問題は端数処分制度自体にあり、その抜本的改善により解決すべきである。
1)実効性: 株式併合により生じる端数はいずれ法235条の端数処分により現金化されるもの。買取請求を認めることは、端数処分とは異なる手続で現金化を追求する権利を株主に付与するのみである。
2)公平性: 端数にかかる権利の現金化を待つ集団の中で買取請求をした者だけが、先に、かつ好条件で回収できる可能性があり、争う知識と絶対金額の小さい零細株主の切捨てにつながる。

【説明】
提案は、端数処分が進まぬまま会社が破産し端数処分代金は結局支払われなかったというモックの事例を元に、そのような端数権利者の財産権を保護することを目的にしている。
ここで提案されている買取請求制度の問題点を検討しよう。
第一の問題点は実効性である。
株式併合により端数が生じることとなる場合、その端数はいずれ法235条の端数処分により現金化される。買取請求を認めると、買取請求した株主は、端数処分とは異なる手続きで現金化を追求することになるのみである。
買取価格が争われた場合、決着が長引けば、結局「会社破産→代金不払」という事態は不変であろうし、多数の訴訟が並行すれば会社にとっても社会にとっても非効率である。
もちろん解決に時限が切られるので早期に解決する可能性はあるし、価格面でも端数処分より有利なものが出るかもしれないが、同じ「端数の現金化」という効果のために二つの方法を重ねて与える意義は極めて小さく、いたずらに制度を複雑化させるのみである。
もう一つの問題点は公平性である。
端数に係る権利の現金化を待つ集団の中で買取請求をした者だけが先に回収できる可能性がある。さらに買取請求者間でも、請求者ごとに個別に交渉されるので、価格面・時期面で対応がばらつくことがあり得る。すなわち、会社が、新支配株主と縁故がある株主や大口の株主にのみ有利な買取価格を提示するなど、交渉力の強い株主に偏頗的対応がなされ、訴訟する力がない零細株主が割を食う可能性が高いのである。
「株式併合に反対しなかった株主は買取請求による保護の必要性は高くない」という判断に強い疑問を感じるものである。
モック事例の真の問題は、現金化の時期と価格であり、その根源は、「端数に係る権利を有する元株主の権利は、端数株式の集合体たる株式(=財団のようなもの)に対する債権であり、その処分がなされなければ分配ができない」ところに存する。
現在問題となっているのは株式併合のみであるが、理論上は、
1)少数の大株主と多数の零細株主のみで構成される会社で
2)高倍率の組織再編・全部取得条項付株式の取得等を行えば
同様の端数処分型スクイーズアウトが行える。
とすれば、端数処分手続全般について、反対株主・請求株主に限定せず、端数権利者全般を一律に扱いつつ現金化の早期確実実施・価格の公正を図るのが、あるべき議論の方向性であろう。
(全部取得条項付株式は既にスクイーズアウトの主要な方法となっているが、買取請求権は全部取得条項を付す定款変更時に与えられており、本来スクイーズアウトの救済手段ではない。また、端数処分が進まないリスクは---顕在化していないが---株式併合と同様である。)
例えば、キャッシュアウトに関する議論同様に、新支配株主が端数株式を取得するよう強制する仕組(キャッシュアウト型にしか当てはまらないのでよい例ではないが)など、従来の枠にとらわれない解決を図るべきである。
なお、中間試案の補足説明(「第三キャッシュアウト」「3その他の事項」にも同様の記述あり)には「“端数となる株式の買取請求の制度を設ける場合には、”株式の併合がキャッシュアウトに利用されるようになることも考えられる」とあるが、制度の新設とキャッシュアウトへの利用の因果関係が不明である。
もし、その意味するところが、「買取制度を利用すると税制上有利だから」ということであれば、一層、一部の株主(=反対株主)のみが利用できるのは問題であるし、“税制メリットを享受するためには(併合自体への賛否とかかわりなく)総会で反対しなければならない”、ということになるのは不合理であろう。
また、その意味するところが、経産省のMBOガイドラインの「株式併合を利用した手法など、公開買付後の完全子会社化に際して、反対する株主に対する株式買取請求権または価格決定請求権が確保できないスキームは採用しないこと」の反対解釈ということであれば、買取請求を免罪符にして弱小株主を切り捨てることを正当化するものであり、これも不適切と言わざるを得ない。


【補足意見: 株式買取請求権の意義を再確認する】
(2012年2月4日掲載)

反対株主の株主買取請求権の意義は、株式の本質的変更を許容できない株主にエグジットの機会を与えることである。
例えば、通常の吸収合併であれば、消滅会社の株主は、その保有する株式と引き換えに存続会社の株式を受け取ることになる。当該株主にとってみれば、その保有する消滅会社株式が存続会社株式に変わるという本質的変容が生じるものである。
また、株式に全部取得条項を付す定款変更も、株式の本質的内容を変更するものである。
このような変更は多数決で決められるところ、「当該変更が自己にとって不利益と考え当該変更に反対する株主も常に多数決の結果を受忍しなければならない」ことは衡平を欠くと考え、その救済として、反対株主に対してはエグジットの権利を与えるのが株主買取請求権の意義である。

但し、それは、「他の株主は(存続会社株主として残る、など)エグジットしないことを許容している」ことがベースである。
現金を対価とする組織再編など全員がエグジットする場合もあるが、制度的にはそれを原則とはしていないからこそ、組織再編には一律に株式買取請求権=エグジット権を与える制度になっているのである。

また、全部取得条項付株式の取得の決議に当っては、裁判所への価格決定の申立が認められている。
株主全員がエグジットすることは当然の前提であることに加え、取得対価が現金である可能性も制度上想定しているから、買取請求ではなく価格決定の請求なのである。

このように見ると、株式併合において株式買取請求権を付与することに違和感があろう。
「皆がエグジットするのを待っている中で、別にエグジットの権利を与える」ということだからだ。
だからといって、価格決定の申立を認めればよいか、というと、これまたそうはいかない。
端数処分手続は、エグジット価格が事前には決まっていないし、競売に近い手続によって公正な価格が実現されるタテマエだからだ。

そのタテマエが現実でないことが問題なのである。
私が、モック問題の解決は端数処分制度自体の改善によるべきである、と主張する所以である。




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