7.支配株主の異動を伴う第三者割当による募集株式の発行等



「支配株主の異動は経営者ではなく株主が決定すべし」という概念は不適切。「株主」ではなく「支配株主」であるべきである。
保護法益の絞り込みが不足している。



【中間試案の概要】 中間試案全文
支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等
(1) 株主総会の決議の要否
公開会社が,ある引受人(親会社等以外)に募集株 式を割り当てることにより,当該引受人が総株主の議決権の過半数を有 する場合 に,株主総会の決議を要するかどうかについて。
【A案】
原則として株主総会の普通決議を要するものとする。ただし, 特に必要と認めるときは,株主総会の決議を 省略することができる旨を定款で定めることができるものとし, そのように定めた場合には,総株主の議決権の100分の3以 上の議決権を有する株主が一定期間内に異議を述べない限り, 株主総会の決議の省略が認められるも のとする。
【B案】
総株主の議決権の4分の1を超える数の議決権を有する株主 が一定期間内に当該募集株式の発行等に反対する旨を通知した 場合には,株主総会の普通決議を要するものとする。
【C案】
現行法の規律を見直さないものとする。

(2) 情報開示の充実
(1)の募集株式の発行等に際しては,株主に対し,次に掲げる事項を通知しなけ ればならないものとする。当該通知は,公告をもってこれに代えること ができるものとする。
@ 総株主の議決権の過半数を有すること となる引受人の氏名又は名称及び住所
A 当該引受人が有することとなる議決権 の数




【意見】
1)株主総会の要否については、B案に賛成。但し、
ア)前提条件は「当該引受人が総株主の議決権の過半数を有することとなる」のみではなく、「または、割当株式に係る議決権数が総株主の議決権の一定数<例えば過半数>である」を加える。
イ)「議決権の四分の一を超える数の議決権を有する株主」を「単独または共同で議決権の四分の一を超える数の議決権を有する株主」と明確化する。
という修正が条件。
2)情報開示については、引受人が既に株主である場合に、会社が「当該引受人が有することとなる議決権の数」を実務上正確に把握できるかどうか、すなわち、引受人が現に有する議決権の数をリアルタイムで把握できるかどうか、につき検証が必要である。
3)大量保有報告書同様、共同保有を含めた実質保有ベースの議決権数をも開示させるべきである(引受人が開示)。

【理由】
会社の資金調達ニーズと既存支配株主の利益保護を最大限両立させるにはB案をベースとするのが妥当。
但し、
意見1)について:
ア)引受人が議決権数の一定割合以上を保有することのみを条件とした場合、共同保有する複数の者が引受人となることで潜脱することができてしまう。これを一定程度防止するため、割当株式の総数についても条件を加えるべきである。
イ)保護対象は既存支配株主に絞られるよう明確化が必要。
意見3)について:
会社による引受人の議決権の開示は引受人単独のものとならざるを得ないので、別途、共同保有者を含めた実質保有の開示も必要。

【説明】
本提案においては、既存支配株主の支配権が保護法益であるべきである(下記補足1参照)。
A案は、少数株主の利益をも保護しようとしており、保護法益にマッチしない。
また、C案は、経営者が既存支配株主を排除することを主眼とした増資(参考:ベルシステム24事件)への歯止めが弱く、既存支配株主の利益保護に問題がある。
B案は、既存支配株主の反対がある場合には募集を強行できないこととしつつ、会社の資金調達ニーズが強い場合には、株主総会がその反対をオーバールールできるという制度を設けるものであり、概ね妥当である。
但し、当該B案は、反対株主の「合計」が四分の一を超えた場合に株主総会を要求しているように見える。既存支配株主が同意しているのに少数株主のみの合計で四分の一超の反対により株主総会を要求するのは理由がない(下記補足1参照)ため、単独または共同で一定比率を保有する株主が反対した場合のみ株主総会を要求することを明確化すべきである。

【補足1】
「支配株主の異動は経営者ではなく株主が決定すべし」という概念は不適切である。
例えば、現在支配株主ではない者からTOBがかけられたという事態を考えよう。この場合、既存の支配株主がある場合、ない場合にかかわらず、少数株主にはTOBに応じるか応じないかの選択しかないし、それに問題があるとは考えられない。すなわち、少数株主には、支配株主を選ぶ権利はなくて当たり前、選べるのは価格である。
一方、既存の支配株主にとって支配権は保有の主要な動機であることが多く、当該株主以外への第三者割当増資は影響が大きい(保護に値する)。
「(既存支配株主が存在する場合には、)支配株主の異動は経営者ではなく“既存支配株主が”決定すべし」が正当であろう。

【補足2】
既存支配株主の支配権を保護法益とするならば、第三者割当に限定せず、公募増資を含む大量募集(=支配株主の持ち分を薄めるもの)を対象に含めることも考えられる。


<WEBのみ補足>
上記「補足1」に対しては、
「第三者割当はTOBとは異なる。大規模な第三者割当は希薄化を招くので、少数株主の声を聞くべき理由がある。」
との意見があるかもしれない。
これに対しては、以下の2点を挙げて反論する。
1)そもそも「増資=希薄化」とは限らない
最近は後ろ向きの資金需要による増資が多いため、さも当然のように「増資=希薄化」とする論調が、日経新聞を含め多く見られる。
しかし、増資資金が事業に有効に使われることにより、既存株式の期待収益率以上の利益をあげる結果をもたらす(端的に言い換えれば「1株当り利益が増加する」)ならば、希薄化はない。
(バブル以前に、公募増資に投資家が群がったことは、上記により説明できる。)
なお、無論、議決権は希薄化するが、その点は次項。
2)支配権の異動の問題ではない
希薄化は、支配株主の異動を伴う第三者割当増資のみならず、公募を含む大規模増資に共通の問題である。
有利発行規制が現状で十分か、という議論のタネにはなるかもしれないが、「支配株主の異動は経営者ではなく株主が決定すべし」というドグマとは無関係であろう。
法制審の方々には説明無用と思うので意見本文には書かないが、WEBには念のため記載しておく。
(2012年1月26日記)

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