【中間試案】 親会社等の責任 株式会社とその親会社との利益が相反する取引によって当該株式会社が 不利益を受けた場合における当該親会社の責任に関し,明文の規定を設け るかどうかについては,次のいずれかの案によるものとする。 【A案】 次のような明文の規定を設けるものとする。 @ 当該取引により,当該取引がなかったと仮定した場合と比較 して当該株式会社が不利益を受けた場合には,当該親会社は, 当該株式会社に対して,当該不利益に相当する額を支払う義務 を負うものとする。 A @の不利益の有無及び程度は,当該取引の条件のほか,当該 株式会社と当該親会社の間における当該取引以外の取引の条件 その他一切の事情を考慮して判断されるものとする。 B @の義務は,当該株式会社の総株主の同意がなければ,免除 することができないものとする。 C @の義務は,会社法第847条第1項の責任追及等の訴えの 対象とするものとする。 (注) その有する議決権の割合等に鑑み,親会社と同等の影響力を有する と考えられる自然人の責任についても,@からCまでと同様の規定を 設けるものとする。 【B案】 明文の規定は,設けないものとする。 2 情報開示の充実 個別注記表又は附属明細書に表示された株式会社とその親会社等との間 の取引について,監査報告等による情報開示に関する規定の充実を図るも のとする。 |
【意見】 A案を以下のように大幅に修正した上で賛成: 会社の取締役が法423条の責任を負う場合において、当該取締役の任務懈怠が、株主との共謀、株主の強迫・教唆に起因する場合は、当該株主は当該取締役と連帯して責任を負うものとする。 なお、情報開示については反対する。 【理由】 A案には以下の欠点があり、理論的裏付け・実効性が乏しい。 1)利益相反取引は、株主が会社から不当に搾取する多様な類型のごく一部であり、本提案は、その余の多様な類型をカバーしていない。 2)新たな法定責任を創設するものであり、会社取締役の責任など、既存の枠組みとの関連が明らかでない。 3)利益相反や損害の判断基準が不明確。 また、昨今の不祥事例を踏まえるとB案には賛成できない。 故に、A案の欠点を修正し提案するものである。 なお、情報開示については、監査報告によるならば、従来の監査報告に比し付加価値はなく無駄である。 【説明】 会社の少数株主の保護について問題になるのは、取締役の横暴に対する保護である。中間試案で問題とすべきなのは、取締役が支配株主の意に従って横暴な行為をしている場合である(その支配株主は親会社には限らず、自然人も含む)。 会社の支配株主が、自身が取締役となりまたは取締役を強迫・教唆して、自己または他人のために会社財産を流用する行為全般が、ここで問題にすべき事象である。部会で想定しているような、利益相反取引(典型的には「親会社に著しく有利な条件での親子間取引」)は、そのごく一部に過ぎない。 支配株主による会社の私物化、例えば、いわゆる三ちゃん経営における会社財産の私生活への流用、支配株主が別に経営する会社や支配株主の愛人への会社財産提供・貸付なども、会社の少数株主保護のためにはカバーする必要がある(大王製紙子会社などを想定すればよい)。 上場企業でも、親会社以外の外部者を通じ、通常の取引の外形を備えた売買、貸付、証券投資の形態で資金が流用された例がある(春日電機・佐藤食品工業などの事例参照)。このような不公正行為全般に網をかけるべきなのである。 そのような不公正な行為は、基本的に取締役の任務懈怠であり、それによる損害を回復する手段は、取締役への責任追及が原点であるべきである。しかし、支配株主が取締役を教唆して不公正行為をさせている場合、取締役が無資力で十分な効果がないことが多い。 また、支配株主を不法行為に基づき追及するのは、一般に困難が大きいし、支配株主を会社取締役とみなして(いわゆる「事実上の取締役」)追及するのは一層困難であることは、中間試案の補足説明で言及されているとおりである。 このように幅広い不公正行為について救済が不足していることを考えれば、まず、子会社の取締役の任務懈怠により子会社に損害が生じていることを前提に、当該損害の賠償責任を支配株主にも(連帯して)負担させる、という構成が、既存の法の枠組みとの整合を確保しつつ不公正行為による損害を適切にカバーするのに最適であると考える。 また、そのように法423条の責任を基礎にして構成すれば、親子間の取引条件も経営判断原則の範囲内で自由であることは明確で、A案Aの「当該取引以外の取引の条件その他一切の事情を考慮して判断される」ことは当然含まれることになる。 一方、会社と株主の利益相反取引において、取締役が法423条の責任を負わないにもかかわらず、独立当事者基準・ナカリセバ基準等を採用して株主を追及しなければならないような立法事実が存するとは考えられない。 上記修正案でも、証券投資(佐藤食品工業におけるSFCGのCP購入など)など、支配株主との利害・共謀関係が証明しにくいものは、カバーできるかどうか疑問が残るが、A案よりは格段に有効であろう。 なお、監査役は、種々の重要なポイントに留意して監査した上で監査報告を作成しており、監査報告書は個別のポイントには言及しない1〜2ページのものである。利益相反取引のみ取り立ててスペースを割いて記述することはバランスを欠くし、「利益相反取引についても問題なし」と一言で記述するのみなら現状比付加価値なく意義が小さいものと考える。 【補足1】 なお、上記の私の提案に対しては、株主との共謀、株主の強迫・教唆の立証が困難、との批判が考えられる。 これに対しては、会社の犠牲のもとに利益を得た者と株主との間に一定の外形的関係が存することを立証すれば共謀・強迫・教唆を推定し、その推定を破る立証責任を株主に負わせる(共謀・強迫・教唆がなかったことの証明は事実上不可能---いわゆる悪魔の証明---なので一定の配慮は必要)、などの解決も考えられ、根本的な問題にはならない。 【補足2】 大王製紙子会社のようなケースでは、取締役に株主からの強迫があった、取締役はサラリーマン役員で実権が乏しかった、などの理由により、(特別利害関係者である強迫株主を除く)株主の同意により取締役の責任を減免することも考えられる。上記の私の提案においては、そのような場合にも強迫株主の責任は免除されないような手当が必要である。 なお、そのように取締役の責任を減免しようとする場合に、「多重代表訴訟」におけるB案イのような規定があると、(親子関係の場合は)当該責任免除が困難になってしまう。その点でも、当該B案イは厳し過ぎる。 【補足3】 中間試案の補足説明には、本制度について「親会社による影響力の行使の態様を具体的に特定することを要せず、また、当該株式会社の取締役が責任を負うことを前提にすることなく親会社に対する責任追及を可能とするもの」とされている。 これを見ると、子会社取締役の責任をベースにすることを意図的に回避したようにも見える。 しかし、その結果、子会社に損害が生じる幅広い類型が欠落し(しかも、それを追及する有効な手段は乏しいまま)、基準が不明確な新たな法定責任を規定する(しかも、その証明は相当困難)、という、弊害の大きい制度となっている。 しかも、取締役の責任を前提とすることをあえて回避することについて部会で議論された形跡がない(中間試案の補足説明にあるとおり、部会では、取締役の無資力等により取締役の責任の追及の実効がない旨の発言はあった。しかし、それ以上の議論はなく、取締役の責任をベースにした工夫の可能性が議論されることはなかった)。 再検討いただくよう強く希望する。 |